母乳育児は大変…日本のママはこだわりすぎてない?世界の常識非常識
母乳育児が大変というのはよく耳にする話。でも、本当でしょうか?子育てに関しては、なかには日本だけで「常識」になっているようなこともあります。
ママが働きに出るために赤ちゃんに粉ミルクを飲ませることは、そんなに悪いことなの?
ここはひとつ、日本の外に目を向けて、他の国のママたちがどうしているのかを探ってみましょう。
この記事の目次
認識の違いがはっきり表れた、オランダ人ママの一言
私がオランダに住んでいたときのこと。
主人の親戚のところに赤ちゃんが生まれ、見に行くことになりました。
生後4ヶ月の丸々とした可愛い女の子が、近所に住むいとこのお姉ちゃんにだっこされ、哺乳瓶でミルクをもらっていました。
ごくごくとミルクを勢いよく飲む赤ちゃんを笑顔でのぞき込みながら、その子のママはこう言いました。
「この子には、母乳もあげているんだけれど、それだけでは足りないみたいだから、粉ミルクもあげているのよね」
ところが、このママは「赤ちゃんがよく飲む子だから、ミルクを足す」というポジティブなニュアンスでこの一言を言ったのです。
このママと同じように考えられれば、日本人ママも精神的に楽になるのではないでしょうか。
オランダでは、母親だけでなく、父親、おじいちゃん、おばあちゃん、近所の人も一緒になって赤ちゃんの面倒を見るのが普通です。
ベビーシッターの習慣も根付いているので、近所で子守を買って出てくれる人もすぐに見つかります。
完全母乳と完全ミルク、どちらが楽?ママの負担という観点で見た場合
完全ミルクは、作る手間もかかるし、外出時にも持ち物がかさばるし、お金もかかるのは事実ですが、それだけで「完全母乳より大変」とは一概にはいえないでしょう。
ミルクを足したり完全ミルクにすると、「赤ちゃんがかわいそう」と言われたり、母親に何か非があるかのように言われたりすることは言わずもがな。
日本の場合は、完全母乳でも、乳腺炎などのトラブルや子供のアレルギーを心配して食事に気を使うし、出すぎても授乳間隔・断乳・卒乳など悩みは尽きません。
日本以外の国では、赤ちゃんに母乳をあげることを望むママが多数派であることには変わりありませんが、混合にしたり、完全ミルクに移行することに抵抗を感じることもあまりありません。
その理由としては、ママの社会復帰が早いということと、パパの育児参加率が高いということが挙げられます。
ママ以外の人が赤ちゃんの世話をする時には、おのずと粉ミルクを与えることになります。
いずれの方法でも、ママに精神的負担がかからないほうが楽でしょう。その意味では、「完全母乳」も「完全ミルク」も、両方ともアリです。
母乳育児率世界一の国、スウェーデンのママは何を食べているの?
母乳育児率のトップを誇る国は、スウェーデン。2007年の調査によると、生後1週間までの完全母乳率は97.3%です。
ところで、スウェーデンは乳製品の一人当たりの年間消費量でも世界一です。その消費量はなんと日本の約6倍。ここでアレ?と思う人もいるでしょう。
外国の文献でも、乳製品が乳管を詰まらせ、乳腺炎の直接の原因になると論じているものは見当たりません。
低脂肪の食生活で乳腺炎が改善するという説を論じている文献もありますが、これも十分に科学的根拠があるものではありません。
日本の「乳製品悪玉説」の根拠として、「乳製品を摂りすぎると母乳が高脂肪になるので、消化器官の未熟な赤ちゃんの体によくない」という人もいます。
実際に、スウェーデンで母乳育児をするママに推奨されている食生活は「タンパク質、カルシウム、野菜、果物、全粒粉のものをたっぷり、バランスよく」となっています。
また、母乳の量を維持するために、そして母体が栄養不足になると悪い成分が母乳に溶け込む恐れがあるため、産後2ヶ月はダイエットは控えるよう勧告しています。
理解しておきたい「完全母乳育児」と「母乳育児」の違い
日本人のママの間でよく話題になる「完全母乳」。「途中から完母になった」という言い方に対して「最初から一度もミルクを足さずにやらないと完全母乳ではない」と言う人がいます。
実のところ、どうなのでしょう? WHO(世界保健機構)は、「完全母乳育児」を次のように定義しています。
そのうえで、生後6ヶ月までは完全母乳で育てることを推奨してはいますが、「途中から母乳だけになっても完全母乳育児ではない」とも言っていません。
逆にミルクを足していても、母乳を飲ませてさえいれば、ミルクと母乳の割合に関わらず、「母乳育児をしている」ということになります。
「完全母乳」であるかどうかは、粉ミルクを調製するための安全な水が手に入りにくい発展途上国で問題になることです。
日本のような国では、未熟児や低体重児には、搾乳してでも母乳をあげる必要がありますが、それ以外では完全母乳かどうかは大きな問題ではありません。
スウェーデンでも生後6ヶ月で完全母乳を続けているママは12.3%にすぎず、この時期までに混合または完全ミルクに移行しているママが多いことが分かります。
ミルクとの混合でも、赤ちゃんの免疫力を高めるなどの母乳育児のメリットは得られます。
桶谷式などの母乳マッサージに通ったり、栄養面で気を使ったり、努力をしても十分に母乳が出ず、精神的な苦痛を味わうママもいます。
母乳不足よりも、むしろ完全母乳にこだわりすぎることのデメリットのほうが心配です。
母乳で悩んでいるうちに、5、6ヶ月になれば離乳食も始まります。母乳で不足する分は離乳食でも補っていけます。
添乳はもってのほか、ヨーロッパでベビールームが必須の理由
寝かしつけに添乳をしているママも日本では多いでしょうが、ヨーロッパでは添い寝自体がよくないとされています。
その根拠は次の通りです。
- 母親が誤って赤ちゃんを押しつぶしてしまうおそれがある
- 子どもの自立のためにも、赤ちゃんの時から自分のスペースを与えるべき
- 添い寝はお母さんの時間を奪うことにつながり、精神衛生上良くない
- 赤ちゃんがいても、夫婦で過ごす時間を大事にすべき
オランダでは、国から出産費用の補助を受けるためには、妊娠中から、自宅の丸々1部屋を割いて、ベビールームを用意しておかなくてはなりません。
また、ヨーロッパのホテルの多くでは、事故防止のため、消防法でベッドでの赤ちゃんとの添い寝が禁止されています。
昼間はママがメインでお世話をして、夜中に赤ちゃんが泣いたら、パパがミルクを作って哺乳瓶で飲ませる、という役割分担をしている家庭も少なくありません。
このヨーロッパ式の子育ての仕方は、ママは楽ができますが、日本人から見ると、かわいそうと思える時もあります。
ただし、アメリカの小児科医シアーズ博士夫妻が2000年に発行したベストセラー育児書『ベビーブック』では、添寝、添乳が推奨されていて、実践しているアメリカ人ママもいるようです。
母乳育児率最低はイギリス。理由は「周囲のプレッシャー」
トップはスウェーデンですが、逆に母乳育児率最低を記録している国は、イギリスです。生後1年で母乳育児をまだ続けているママはたったの0.5%です。
最も大きな理由は、ママがこれまでの生活に早く戻るよう、周囲からプレッシャーがあるためだと言われています。
これはキャリアの面に限ったことではなく、一刻も早く体型を戻し、社交生活に戻り、夫を喜ばせる必要があると産後のママに感じさせる環境があるためです。
イギリスでは2010年に改正された平等法により、公共の場で授乳する母親を差別することは禁止されています。
それにもかかわらず、同じ2010年、公共の場で授乳をした11%のママが実際に周りの人にやめるように言われたり、不愉快なことを言われたりされたりということを経験しています。
イギリスでは多くの人が表向きは「節度を持ってやるならOK」としながら、本音ではどのような状況であっても人前での授乳は不適切と考えているという調査結果もあります。
そのような状況もあり、イギリス人ママ達の1/3以上が公共の場で授乳することを避けているといいます。
日本でもベビーカーで電車やバスに乗るママに冷たい視線が投げかけられることがあります。共感してしまいますね!
それでもイギリスのママの90%以上は、本音では赤ちゃんに母乳をあげることを望んでいます。
母乳育児を支える中国の伝統「坐月子」
中国では母乳育児率は低下傾向にあるものの、昔からの伝統として、お産をした女性の体をいたわり、母乳育児を支える「坐月子」という習慣があります。
坐月子を行う期間は1ヶ月。その間、ママは以下の決まりに従って生活しなければなりません。
- 食事とトイレ以外、寝て過ごさなくてはならない。
- 重いものを持たない。赤ちゃんを抱っこするのもダメ。
- 冷たい水や風に触れてはいけない。
- お風呂に入ってはいけない。
- 涙を流してはいけない。
- 本を読んだりテレビを見てはいけない。PC、スマホもダメ
- 食事は決められた「坐月子メニュー」を食べる
上記を守ることで、母乳が良く出て、産後の肥立ちも良くなると信じられています。当然、お世話をする人が必要になりますが、通常はお姑さん、親戚が総出で助けてくれます。
赤ちゃんを抱っこできないので、母乳は横になった姿勢であげることになります。いわゆる添乳に近い状態です。
医学的には、身体を冷やさないのは子宮の回復には良いことですし、じっとして重いものを持たないということは、出産で生じた骨盤のずれを元に戻すのに効果的です。
坐月子メニューには、生薬を米酒で煮た薬膳スープや豚の腎臓の料理があり、産後の時期によって食べるものが決まっています。
中国の妊婦、ママにやさしい環境は、産後の疲労感を感じながら旦那さんの世話もしなくてはならない日本人ママにとっては、うらやましい環境といえるかもしれません。
日本人ママも、もっと気を楽に持って母乳育児を楽しもう
各国の母乳育児事情を見ていて気づいたのは、どの国のママも、良い意味で、日本人ほど母乳育児にこだわりを持っていないということ。
でも、これはママの気持ちの持ちようというよりは、日本では周囲の環境や仕組みがママひとりに努力を強いて、精神的なプレッシャーを与えるようになっているためです。
日本では助産師、看護師などの専門家がグルになって妊婦や新米ママをいじめているのではないかとさえ思えるときがあります。
イギリスの例から見ても、社会的な環境が母乳育児に大きな影響を与えていることが分かります。
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