妊婦の冷えを侮ってはいけない!赤ちゃんや母体に与える影響
それまで「冷え」とは無縁だった方でも、妊娠をきっかけに手足やお腹の冷えを感じてしまうことがあります。
ホルモンバランスや自律神経の乱れによって引き起こされる妊婦の冷えは、様々なトラブルの引き金になってしまいます。
冷えを改善するだけで、それまで悩んでいた症状が軽くなることがあります。ここでは、妊婦の冷えが起こす赤ちゃんへの影響と母体への影響についてまとめました。
妊娠中の冷えの影響・・・胎児の成長や出産へのトラブル
妊婦さんは、自律神経の乱れや運動不足、筋肉量の低下やホルモンバランスの変化、姿勢や体型の変化などから血行不良を起こしやすく、冷えを感じやすくなります。
冷えと妊娠の関係については、未だ医学の世界で解明されていないことも多いですが、少しずつ冷えが妊娠のトラブルを引き起こす可能性があることがわかってきています。
まず考えておきたいのが、妊娠中の冷えが及すおなかの赤ちゃんへの影響です。冷えによって血流が悪化すると、赤ちゃんを十分に育てることができなくなります。
ここでは妊婦の冷えが赤ちゃんや出産に及す影響について考えていきましょう。
- 低出生体重児(低体重児)
- 早産・前期破水
- 常位胎盤早期剥離
- 微弱陣痛・遷延分娩
- 逆子
低出生体重児(低体重児)
日本での低体重児の出生率は、1980年ごろから増加しています。さらに、出生時の平均体重は最近40年で200gほど減少しています。
低体重児の原因には、喫煙や前置胎盤などが挙げられますが、福岡市の久保田産婦人科のホームページでは、妊婦の冷え症が低出生体重児につながると指摘しています。
数十年前の女性に比べ、現代では痩せている女性が多くなり、足の筋肉の発達も未熟で血液を下肢から心臓に戻す機能が弱くなっています。
そのため、子宮にめぐる血液の量が不足し、おなかの赤ちゃんに送られる酸素と栄養も十分ではなくなると考えられています。
また、胎児の発育のために摂取カロリーを増やしたとしても、栄養の運搬力となる血液の循環を改善させなければ、胎児まで届けることができません。
つまり、体の筋肉量を増やすことで全身をめぐる血流を改善することができれば、子宮に十分な血液が使われることになり、適切な食事量で元気な赤ちゃんを育てることができるのです。
早産・前期破水
冷え症の妊婦は冷えを感じていない妊婦よりも、早産や前期破水の発生率が高くなることがわかっています。
早産とは、妊娠37週より前に赤ちゃんが出生することを言います。高齢妊婦・多胎妊娠・妊娠高血圧症候群・羊水過多・子宮筋腫など、早産の原因は様々です。
前期破水とは、陣痛が来る前に破水してしまうことを言います。胎児が包まれている卵膜が破れると、胎児が感染症を引き起こしたり、子宮が収縮して早産につながったりする恐れがあります。
早く出生すれば、それだけ赤ちゃんは小さく生まれることになります。出生体重2500g未満の低体重児になる可能性も高くなります。
早産の発生率は妊娠全体の5%ほどです。妊婦健診をきちんと受けてリスクを最小限に抑えていくことが早産の予防につながります。
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常位胎盤早期剥離
常位胎盤早期剥離(早剥)とは、分娩後に剥がれるはずの胎盤が、赤ちゃんがお腹の中にいるうちに剥がれてしまうことです。
前期破水が起こると常位胎盤早期剥離を併発しやすくなります。奈良県立大学の佐道俊幸助教授の論文では、剥離発生率が前期破水後48時間未満で2.4倍、48時間以上なら9.9倍になると示しています。
早剥が起こってしまったら、とにかく分娩を進めなければなりません。早急に赤ちゃんを子宮から出さなければ、赤ちゃんの命を落とすことにもなります。
経膣分娩が難しい場合には帝王切開を行うなど、赤ちゃんと母体の安全が最優先に考えられます。
つまり、冷えによって前期破水が起こりやすくなるということは、それだけ常位胎盤早期剥離も起こりやすくなる、ということです。
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微弱陣痛・遷延分娩
妊娠中に冷えを実感している方は、冷えを感じていない人よりも、微弱陣痛・遷延分娩の発生率が高くなります。
微弱陣痛とは、陣痛時の「子宮の収縮が弱い」「収縮している時間が短い」「収縮と収縮の間隔が長い」ことで分娩が順調に進まないことを指し、遷延分娩にもつながります
遷延分娩とは、お産に時間がかかることであり、初産婦で30時間以上、経産婦で15時間以上経過しても赤ちゃんが生まれてこないことを言います。
なぜ冷えが陣痛に影響を与えるのかは未だ解明されていませんが、体が冷えると子宮の筋肉が固まってしまい、分娩に必要な子宮の収縮が十分に起こらないのではないか、と考えられています。
子宮が強く収縮しなければ子宮口の開きも悪くなり、分娩の長時間化や難産につながることになります。
逆子
胎児の頭の位置がお尻よりも高い位置に来てしまうことを逆子といいます。胎児の向きや体勢によっては、経膣分娩が胎児の命に危険を及すと考えられる場合があります。
逆子になる原因は、子宮筋腫や羊水過多、狭骨盤などが挙げられますが、はっきり分かってはいません。
一説では、下腹部が冷えると温かい場所を探して胎児が回転してしまい、頭を下に向けなくなってしまうのではないか、と言われています。
なお、鍼灸によって逆子が治ることはよく知られています。下腹部が温まり、骨盤内の血行が良くなることで、子宮内の緊張が和らぐのではないかと考えられているのです。
東京都港区のおおした鍼灸院のホームページによると、鍼灸による治療が子宮や骨盤の血行を良くし、子宮の緊張を和らげることで胎児の回転を促すと推測すると書かれています。
このことを逆に捉えてみると、体が冷えて血行が悪くなることは、子宮内の環境悪化につながるのではないか、と考えることができます。
冷えによる出産トラブルが発生する確率について
「冷えは万病のもと」とも言われるように、鍼灸や漢方などの東洋医学では冷えについて、昔から備えられてきました。
しかし、医学の世界では、まだ冷えと妊娠について述べられているものがとっても少ないのが現状です。
ここでは、冷えについて研究している横浜市立大学医学部教授の中村幸代氏の研究結果をご紹介しましょう。
冷え症の妊婦は、冷え症でない妊婦と比べた際に以下のようにそれぞれの発生率の割合が高くなります。
早産 | 約3倍 |
---|---|
前期破水 | 約1.7倍 |
微弱陣痛 | 約2倍 |
遷延分娩 | 約2倍 |
(中村氏の研究論文「妊婦の冷え性がもたらす異常分娩の解明 – 傾向スコアによる交絡因子の調整 」「傾向スコアによる交絡調整を用いた妊婦の冷え症と早産の関連性」による)
なぜ冷えがこれらの影響を及すのかについてはまだ研究段階にあるようです。しかし、冷えを感じている妊婦が出産のトラブルになりやすいことは、わかってきています。
元気な赤ちゃんを迎えるためにも、妊娠中にできる冷え取り対策をしていきたいものですね。
冷えがもたらす妊婦のマイナートラブル
日本では昔から妊娠5ヶ月の戌の日に、安産を祈願して腹帯を締める風習があります。腹帯は大きくなるお腹を支え、冷えを予防する役割をしてくれます。
それほど、古くから「妊婦は冷やさないように」と考えられていたのでしょう。腹帯に医学的な根拠はないとも言われますが、先人の知恵を大切にし、妊娠中の冷えには気をつけたいものです。
- 内臓機能の低下・・・便秘、痔、貧血
- お腹が張りやすくなる
- 筋肉への影響・・・肩こり・頭痛・腰痛・足がつりやすくなる
- 代謝の悪化・・・むくみ、肌荒れ
- つわりの悪化
- 免疫力の低下
1.内臓機能の低下・・・便秘や痔、貧血になりやすくなる
体が冷えると内臓の働きが弱くなり、食事の消化・吸収に影響を及します。腸の働きが悪くなって便秘になりやすくなるほか、栄養の吸収が悪くなることで貧血になりやすくなります。
- 便秘
- 内臓の冷えによって腸の動きが悪くなり、排便されにくくなります。体の熱が内臓部分に優先的に使われるようになるため、手足の冷えが加速してしまいます。
- 痔
- 痔の発症原因は「血行不良」と「便秘」です。血行不良により肛門付近に血が溜まりやすくなったところへ、便秘のために強い力でいきむと、うっ血して痔を発症してしまいます。
- 貧血
- 内臓が冷えて機能が低下すると、食べ物から栄養を十分に取り込むことができなくなり、貧血を起こしやすくなります。貧血になると血液で運ばれる熱も少なくなってしまいます。
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2.お腹が張りやすくなる
妊娠中に子宮の収縮が起きると、「お腹の張り」として突っ張った感じや痛みを感じます。妊娠初期には子宮の筋肉が伸びるときに、お腹の張りを感じることがあります。
妊娠中期には、長時間の立ち仕事や体を動かした後にお腹が張る場合がありますが、体が冷えると、筋肉が固くなって子宮の収縮がおきやすくなります。
頻繁なおなかの張りは早産につながることがあるため、1時間に何度もお腹が張るようであれば、病院を受診しましょう。
また、便秘になるとお腹が張りやすくなります。冷えは便秘の原因にもなりますから、体を冷やさないように過ごし、便秘と筋肉の硬直を予防することがお腹の張りの改善につながります。
3.筋肉への影響・・・肩こり・頭痛・腰痛・足がつりやすくなる
筋肉が冷えると、痛みやコリを発症させるほか、こむら返りも起こしやすくなります。
- 肩こり・腰痛・頭痛
- 体が冷え、血液循環が悪くなると、萎縮した筋肉をほぐすことができなくなり、肩こりや腰痛、頭痛を引き起こしやすくなります。
筋肉が固くなると血管が圧迫されて、ますます血液の流れが悪くなり、冷え症と肩こり・腰痛の悪循環になってしまいます。
- こむら返り
- 妊娠後期のマイナートラブルとして知られる「こむら返り」にも、冷えは大敵です。
妊婦のこむら返りの原因は、「血液中のミネラル成分のバランスが乱れている」「大きなお腹を支えるために足に負担がかかる」などが挙げられます。
足が冷えてしまうと、血行不良が起きて筋肉に十分な酸素やミネラル成分が送られなくなってしまいます。また、筋肉も緊張しやすくなり、こむら返りを起こしやすくなります。
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4.代謝の悪化・・・むくみ・肌荒れ
血行が悪くなると、老廃物の排出ができなくなり、体内に水分が溜まってむくみを引き起こしてしまいます。
特に妊娠中は体内の水分量が増え、下半身に溜まりやすくなるため、むくみの症状が出やすいものです。
ターンオーバーが悪くなると、古い角質が溜まり、くすみ、ニキビ・シミ・シワなどを引き起こしやすくなります。
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5.つわりの悪化
西洋医学では、つわりは「ホルモンの影響」「栄養(ビタミン)不足」「心理的要因」などで起こると考えられています。
一方、東洋医学では、つわりには次の3つのタイプがあると考えられています。
- 気の逆流
- 水が溜まっている
- 気が滞る
東洋医学では、つわりでお困りの妊婦さんの症状に合わせ、どのタイプにあてはまるのかを見極めて、漢方が処方されます。
- タイプ1:気の逆流
- 胃の気が逆流し、嘔吐しやすくなります。この場合の対処法としては、逆流する気を元に戻すために足を温め、温かい食べ物を摂るようにします。
- タイプ2:水が溜まっている
- 体内の水分が過剰になることで胃がムカつき、嘔吐や下痢、むくみが多くなります。体を温める食べ物やおへその辺りを温めるのが効果的です。
- タイプ3:気が滞る
- 体の中に滞った気が熱を帯び、胃が刺激を受けてつわりの症状を起こします。顔や体が火照りやすいのですが、手足が冷えやすいので冷たいものの摂りすぎに気をつけます。
どのタイプのつわりであっても、胃腸の機能が低下していることに変わりありません。水分補給が大切ですが、一度に大量の水を飲むのではなく、適量を数回に分けて飲むようにしましょう。
6.免疫力の低下
体が冷えると免疫力が低下します。体温が下がると、体内で働く酵素の力が弱くなり、細菌やウイルスに抵抗する力が弱くなってしまうのです。
特に、外気温が下がる秋冬には、空気が乾燥して風邪症状を起こす病原体の活動が活発になります。
妊娠中は風邪をひいても薬に頼ることができません。寒い冬に体を温めて冷えを防ぐことは、抵抗力をアップさせてウイルスなどから身を守ることになります。
妊娠中は身体を冷やさない対策を!
妊娠中の冷えは、赤ちゃんの成長や出産に影響を及し、母体のマイナートラブルの原因となります。特に夏場の妊婦さんは、体温調整ができず、まわりの方以上に暑さを感じやすいものです。
しかし、冷たいものを摂りすぎたり、足やお腹を冷やすような格好をしていると、身体が冷えてしまいます。
妊娠中から体が冷えていると、出産後にも母乳の質や量の低下などの「おっぱいトラブル」を起こしやすくなります。
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